ふるさと内尾の忘備録
 
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■ しんぞーかっけ という名の谷


内尾の在所から奥へ数キロ。
止め山となっているゲートを解錠して山道をひたすら進む。
幾つもの谷を渡り、昔の内尾の人々が炭焼きをしたり植林をしたりしていた奥山に向かう道沿いに
剥き出しの岩の間から、溢れるように水が湧き出している谷があります。
そこの水は夏でも一際冷たくて、特においしい水なのだとか。
だけどなぜか「たくさん飲んだらダメ」と言われています。
地元の人はその谷を「しんぞーかっけ(心臓脚気)の谷」と呼びます。
昔の内尾の人たちが山仕事をしての帰り道、その水があまりにおいしくてついつい
がぶ飲みしてしまい、冷たすぎる水で身体を冷やしたせいで「心臓脚気」という病気になってバタバタと倒れた人が何人もいたのだそうで。
心臓脚気ってどんな病気?と聞くと、心臓がバクバクなって息苦しくなる病気だというんです。
脚気といえば、健康診断なんかで膝の下をこんっと叩いて、足が反応するか調べるあれでしょう。
確かビタミン欠乏症・・と自分の知識はここまで。
調べてみると、脚気が悪化したら脚気衝心という心臓の機能低下が起こるらしいです。
どうもそれが心臓脚気っぽいですね。
んー・・・だけど、それがなぜあの湧水と関係あるのかわからない。
たぶんそれは、当時結核とともに流行っていた脚気の原因を、想像力を働かせて関連づけてしまった迷信なのかもしれませんね。
いずれにしても、冷たい水の飲み過ぎは良くないのは間違いないですから。

しんぞーかっけの谷から数キロ下流にある、オワリ谷だったかコワリ谷だったか、そんな名前の谷があり、年配の人の話では昔「自分が死んだら、あの谷の水で死に水をとってほしい」と願う人が何人かいて、それくらいその谷の水も清冽でおいしい水が出ているそうです。

話はまたしんぞーかっけの谷。しんぞーかっけの流れは、少し下流に行くと地下に潜ってしまい、最終的にどこの谷川に流れ込んでいるのかわからなくなっていますが、
昔の人が、ある時しんぞーかっけに色水を流したら、なんと
数キロも下流のその「死に水に使って欲しい谷」に色水が出てきたという言い伝えがあったんです。
ということは、しんぞーかっけの谷の水はやっぱりダントツに美味しい水。
その禁断の名水を、どちらも通り過ぎるだけで私は未だに飲んだことがありません。
飲んだらしんぞーかっけになる!とは思っていないですが。