ふるさと内尾の忘備録
 
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■ジビエの話 その


一昨年の秋のこと
「喜兵衛、シクムジナ、食うか」
直海谷の少し離れた在所の方から貴重な肉が届いたと言って
おすそわけに近所の人が持ってきたピンク色の肉。
見るからにあやしいんですけど・・・
「えええー?要らん要らん。絶対イヤ!ムリ!誰も食べんよ!!」
山の人には率直にお断りしないと遠慮してると思われます。ですから
激しく首を横に振り、強い口調でかなりストレートに言ったのに
「ま、ま、そう言わんと。脂のっとって、すき焼きしたら最高にウマいぞお」
と言って無理無理置いていってくれました。
もちろんそこにあるのは親切心のみで。
そもそもシクムジナって何??って思われるでしょう?私も最初は知りませんでした。
内尾でシクムジナはアナグマのこと。似たのにハチムジナというのもありますが
これはタヌキのこと。
聞くところによると、シクムジナは草食性で肉は美味、ハチムジナは肉食性で
どうしようもなく美味しくないんだとか。
一般的にはムジナやタヌキや何やらごちゃごちゃに混同されており
私とて識別には自信ありません。
椎名誠氏のアウトドア本に、タヌキの肉を藁に包み土に数日間埋めて
においを消してから食べたという旨のくだりがありますが、
これこそハチムジナのことだと思います。
今は亡き喜兵衛のじいちゃん(主人の父)は、野生の肉が大好きでした。
私が結婚して内尾に来たばかりの頃、ある日家じゅうにすごい変なニオイがたち込めていたので何事かと思って厨房に行くと、じいが何かの肉とネギをフライパンでぐつぐつやっていました。
「何作ってるの?」と恐る恐る聞けば、じいはムジナ汁だと答え
よく見ると使っているのはなんと、私が嫁入り道具と一緒に持ってきた新しいフライパン!
「これあたしの・・」とも当時は言えず、新品のフライパンには何とも言えない変な
ニオイがついて洗っても落ちないんです。結局フライパンは捨てました。
悲しくて泣きそうでした。いや、泣きました。家出したくなりました。
それから数日後、じい宅の玄関に檻が置いてあり、またもやムジナらしきものが居るんです。
あろうことか、またじいが「ムジナ汁でもするか・・」とつぶやいているので、
さすがに私も今回は「絶対やめて!お客さんに迷惑かかるから」と強く主張して
前回のことで息子にもこっぴどく叱られたじいは、とても残念そうでしたが
ムジナは命拾いすることになりました。
あれはシクムジナだったのかハチムジナだったのか検証しようがありませんが
その一件の直後、じいは元々闘病中だった病が原因で体調を崩し、その年の夏に
他界してしまったので
実は未だに、あの時ムジナ汁を断念させてしまったことを、少々後悔しています。
げ○もの食いだと非難する前に、一部の人の食文化なのだと理解しようとしても
無理がありますが
ある年齢より上の山の人にとっては、本当に牛や豚などのいわゆる畜肉よりも、
野生の肉の方が慣れ親しんだ味なのかもしれません。よそはどうか分かりませんが、喜兵衛のばあちゃんだって時々「あーウサギ食いてえ〜」とか言ってますもんね。
私は今も、シクムジナであろうとハチムジナであろうと、絶対に食べたいとは思いませんし、
袋ごしでも触るのもイヤ。もちろん食べたこともありません。
ちなみに頂いたシクムジナの肉は、クマやイノシシを入れる冷凍庫に保管したつもりが
知らないうちに(?)消えていました。ざんねーん
冷凍庫に保管しようとした前後の行動の部分だけ記憶がどうも、すっぽり抜けてるんですわ。
不思議・・・